|
個の時代を生きるビジネスパーソンからのヒント
連載 第25回
私のキャリア・プロファイル
アリスコーポレーション 代表取締役
長坂泰彦さん
■青年実業家になりたいという「夢」を「信念」に高めて実現した
1.現在の仕事を選んだ理由と20代で取り組んだ仕事や経験
特殊な周波数の音楽を聞くだけで英語のヒアリング能力が向上するという、他に例のない聴覚訓練教材「マジック・リスニング」を、主にインターネット上のショップで販売している。2000年ベストヒットアイテム賞、2001年ショップ オブ ザ イヤー部門賞を受賞した。従業員7人で、売上高は13億円にのぼる。
教育書籍販売業界での10年間のセールスの経験を生かして97年2月、36歳の時に会社を設立。娘の名をつけると成功すると聞き、この名前にしたものだ。
20代の前半までは、まったく異なる世界にいた。高校は早稲田実業への進学したが、私は在学中からダンスにのめり込み、ディスコダンスコンテストで優勝を繰り返すうちに、芸能界入りを決断した。バックダンサーなどを経てデビューしたグループ「リフラフ」では、いまは安室奈美恵の夫であるSAMも一緒だった。
ビジュアル系、ダンス系グループの走りで、シングル5枚、LP1枚を出し、テレビ、ラジオにも出演し、ブロマイドの売り上げで3位になったこともある。
やがて歌やダンスのうまさや個人の努力がそのまま反映される世界ではないと悟り、また、メンバーの目指す方向も違ってきた。
「休業宣言コンサート」を最後に、約7年間の芸能生活にピリオドを打った。高木彬光の小説「白昼の死角」に描かれた東大生の闇金融グループ「光クラブ」の話に影響され、「私は青年実業家になる」と周囲に宣言する「ようになった。大人顔負けにのし上がる若者の姿にあこがれたのだった。
最初に女性向け会員制クラブをつくった。「アイドルからモーニングコールが来ます」などと、芸能人好きの女性向けのサービスを始めたが、長続きしなかった。
電話をかけたのは「元アイドル」の私自身で、早朝の指定や、1日に何度もかけてほしいとのファンのリクエストに音を上げた。スキー場でディスコを経営するアイディアもあったが、十分な資金がなければ実業家といえるレベルになれないと悟った。
独立資金づくりのために、とにかく稼げる仕事に就こうと思い、求人誌で見つけた成功報酬型の教育図書販売の会社に入社した。27歳になっていた。研修を受けた後、現場へ出て1ヶ月目に販売コンテストでいきなり全国優勝を果たし、200万円の賞金を手に入れた。
その後も連戦連勝だったが、同業他社へ引き抜かれた上司に付いて転職。管理職として部下を育成する側に立った。コンテスト受賞者の大半が私の部下で占められるようになった。
組織づくり、人材育成、勝ちにいくマネジメントを自分なりに培っていった。
重要なのは、「絶対に勝つ」という信念を貫き通すこと。「ダメかも知れない」という不安をわずかでも頭に浮かんだら、それをかき消す。部下に対しては、「私の言うとおりにすれば必ず成功するといわばマインドコントロールのように1対1で吹き込んだ。私自身に成功体験があったから、成功の伝承ができたのだ。
2.30代で取り組んだ仕事や経験
開業に十分な資金がたまり、自身もつき、「もうこれ以上待てない」と、会社を立ち上げた。部下の何人かが付いてきてくれた。何の根拠も無かったが、「株式公開、そして上場を目指す」と宣言した。「でっかくなりたい」と思った。
それまでの経験を生かし、やはり教材のセールスを手がけたが、業界には同じような代理店は無数にある。
他社と同じことをしていたら、絶対に上場できない。ナンバーワンではなく、オンリーワンにならなくてはならない。投資家に興味を持ってもらえるような、何かオリジナルなものが必要だった。
そんな時に出会ったのが、研究者の傳田文夫氏が開発した聴覚訓練システム。本来、音楽を専攻する学生向けだったが、実験により外国語の聞き取り能力を高めるのに効果があることがわかった。
英語には日本語にない周波数帯域の子音が多く、日本人の耳は無意識のうちにこれを排除してしまうから聞き取りにくいのだ。そこで、認知できる周波数帯域の音を拡張するために開発したシステムが「マジックリスニング」。クラシックやジャズなどの音楽を特殊処理した音で構成したCD教材で、聞けば自然に耳が反応して訓練される。
既に日本では特許取得済みで、米国、韓国およびEU4カ国でも特許申請中だ。
3.大きな困難を乗り越えた経験(修羅場経験)、あるいはキャリア上の転機となった出来事
苦労してもそれをネガティブに捉えず、すぐ忘れてしまう。ただ「マジック・リスニング」を製品化するまでは大変だった。セールスの百戦練磨であるが、モノづくりに関してはまったくのシロウト。
CDのプレスの仕方、パッケージの作り方から、どこへどのように発注すればよいか見当がつかなかった。大企業であれば事前に市場調査してからゴーサインを出すのだろうが、私たちは、「行くぞ!」の掛け声で突っ走った。パートナー企業はインターネットで探し、B2Bの取引をうまく利用した。
英語教材は世の中に氾濫しているが、「マジックリスニング」は既存のどれともバッティングしていないので、日本の英語学習者のすべてをターゲットにできる。
だが、12日間聞くだけで突然、英語が聞き取れるようになると言っても、誰もが胡散臭いと思うはず。私自身も最初はそうだった。
発売当初は、各種の展示会に出展し、1人でも多くの人に試聴体験してもらうようにした。どこでも黒山の人だかりができるほど目を引いた。話題性のある商品だが、広告戦略中心で行こうと決めた。
だが、新聞や雑誌の広告費や高額で、しかもスペースが限られているので、商品の特徴を十分に請求できない。
インターネットに着目し、自社ホームページを開くと同時に楽天市場に出展したところ、予想以上の反応があり、現在ではネット中心だ。好きなだけ情報を伝えることができ、いつでも更新・追加できる点がいい。
ホームページのメッセージや画面構成、ページをめくらせるタイミング、ストーリーの流れは、私たちが長年培ってきたセールスのノウハウを生かしたもの。最初に対面した時の雰囲気づくり、語りかける間合いと呼吸、気分の盛り上げ、そして徐々に気分を落ち着かせて、契約に至るという流れを画面上に表現している。
4.支援者・メンターとの出会いはあったか、それはどんな立場の人であったか
最高の支援者は、いまの部下たちだ。私を信じてくれて、一緒に勝負して勝利する仲間だ。早朝から夜遅くまで、いつもだれかがオフィスでがんばっている。夜中に問い合わせの電話がかかってきた時にもすぐに対応し、「まさかこんな時間にだれもいないだろうと思っていたのに」と、顧客に驚かれたほどだ。
5.日常の仕事のなかでの心がけやポリシー
3年先、5年先などと期限付きの具体的な目標を定め、バグゼンとした願望を「絶対に実現させてやる」という信念にまで高めていく。自分には達成できると信じて疑わないことだ。
部下に対しても常に言っていることだが、いいかにモチベーションを下げることなく持続させるかが難しいところだ。いつでも元気とは限らず、時には落ち込むこともある。そんな時は親身になって1対1で話を聞くようにしている。
6.自分の能力を磨くためにしている(してきた)こと
ダンスもそうだが、多趣味でいろいろなことに興味が向き、ある程度のレベルに達するまで、徹底的にやらないと気がすまない。どれも自己流で、だれかに手取り足取り教えられるのは私の流儀ではない。未知の世界に飛び込む時も、他人に頼らず、まず、自分から動いてみる。もちろん、先人の意見は聞くが、それを取り入れるかどうか判断するのは自分だ。効率が悪く、失敗もあるかもしれないが、最後には満足いくものが得られる。
7.個が活きるための組織の仕組みをどう考えるか
人材教育で一番重要なことは、各自にやりがいを持たせることだ。どんな人間でも、自分がこの会社、この上司、この社長に必要されている、そして自分が貢献していると思えば、やりがいにつながっていくだろう。
8.自分の将来のビジョンと組織の将来
「マジックリスニング」の販売を通じて得たノウハウを武器にして、世界へ進出したい。昨年12月には韓国に子会社を立ち上げ、最初の月から黒字を計上した。
「マジックリスニング」の商品力だけで続いている会社ではないことを示したい。ネットで何を売らせても利益をを出せることを証明したい。現在展開している教育関連サイト「ポジポジ学び隊」で培う商品に限らず、健康、遊び、癒しなど、新たなジャンルにも挑戦し、「売れるネットショップのことはアリスに聞け」と言われるようになりたい。 (栗原知女)
|